幸せは偽薬

前の日記から1年も経っていて、でも何も変わっていない気がします。変わったのはもう人にそれほど会えなくなったことと、伸びた髪、返せないままの傘。誕生日を一人で過ごしたことです

 

言いたいことは誰にも言えません。どこかに隠蔽されていて、それは誰にも見せられない。正しいことは手のひらのサイズのくせして、誰かに手渡しすることは出来ない。君に渡したくても、手のひらを開いたときにはもう別のものになっている。生き物は死骸に、色は無色に、愛は爪に、ぬくもりは暴力に変化していて、君には到底渡せる代物ではない。それがどん詰まりにたまって、頭の中がぐじぐじ痛みます。

 

君って書いても、誰のことも頭に思い浮かばなくなりました。なんとなくフラッシュバックバックみたいには思い出せるけど、それもぼんやりとした輪郭だけ。誰かに伝えたいのに伝わらないみたいな、言いたい言葉が言えなくて、それがどんどんキーボードの上で暴れるみたいな。そういう強い気持ちでは文章を書けなくなっている。書いている時はあんなに最低な、こんなのは読むに堪えないと思った過去の文章たちも今読みかえせばそれなりに光って見えます。自分のことをどう思っているか、君のことをどう思っているか、そんな文章は書けなくなっちゃったのかなぁ。

 

君にひさしぶりに会ったけど、なんだか今までとは違う関係になったみたい。友達みたいに話す君を見て、同じところをぐるぐるぐるぐるしていた私たちはいないんだなって思った。いや、そもそもきっと「私たち」なんていうものは存在しない。君が「俺たち」なんて言ったら軽蔑するよ。だって私と君は、私たちなんてものではないから。

 

住む家が変わって、収入が増えて、公共料金を滞納することもなく、私は奢る側でなくて奢られる側になっていて、そういうすべての細かい変化が悲しい。でももしかしたら水の中で息をするみたいに、ずっとなんとなくのままでいられるのだとしたら、それは死んじゃうより良いのかもしれないと思った。

 

反対側で生きていても、いつのまにかいなくなっていても、痕が1週間で消えちゃっても、声が思い出せなくてもう二度と会えないんだとしても、それでいいなと思います。きっと会えなくなってからが本当で、今は嘘みたいなものなんだ。幸せは偽薬。

 

私はもう馨じゃないけど、馨だったときのことはきっと血肉になっているんだろうなと思うよ。